東日本大震災で大きく被害を受けた、大正時代に建てられた住宅のリノベーションプロジェクトです。古い日本家屋の開放性を残しながら、現行の耐震基準を満たすために、最小限の新棟を付加し、耐震性能を確保しています。「揚げ舞」とは建物を持ち上げ基礎を施工する特殊工法です。
はじめに
2011年3月11日の地震の揺れで傾いた建物の復興です。
宮城県内陸部で思い出と共に時を重ねた木造平屋がありました。
激しい揺れが襲い、丈夫につくられた屋根周辺と開放的なつくりの下部との境目で柱が折れてしまいました。
折れた柱がかなり傾き、建物がゆがみました。
柱が折れたことで開放的なつくりの建物が大きくゆがみ、押し出されるようにガラス戸がはずれました。
2011年4月7日の大きな余震でさらに柱が傾き、建物のゆがみが増しました。
復興へ
建物全体を持ち上げ、補強をする「揚舞」と呼ばれる工法を選択しました。
まず建物が倒れないように仮の補強をしました。
折れた柱の上部で壁をくり抜き、鋼材を縦横に組み、建物を抱きかかえるように支えました。
ジャッキを使って建物全体を持ち上げ、折れた柱を新しい柱に置き換え、建物のゆがみを修正しました。
床を取りはずし、柱の下部で組まれた土台周辺で鋼材を縦横に組み直し、建物を下で受けとめるように支えました。
土台の下には、いままで以上にしっかり建物を支える鉄筋コンクリートの基礎が、新たに設けられました。
ジャッキを使って持ち上げていた建物を、水平垂直を調整しながら基礎の上に接地させました。
取りはずした床を再生しました。
外観
地震の揺れで生じたゆがみを修正した建物に補強を済ませ、水平垂直の線がしっかり通りました。
激しい揺れで折れた柱を新しい柱に置き換え、建物のゆがみではずれたガラス戸を再生しました。
玄関とキッチン、ダイニングのあった部分は、地震による傾きが大きく再生できませんでした。
その場所には、コンパクトな玄関とキッチンの入った白い箱が設けられました。
新しく設けられた白い箱には、揺れに抵抗力のある壁を配しました。
以前は開放的で壁が少なく地震の揺れの影響を受けやすかった建物に、白い箱を添えてしっかり支えます。
新しい玄関に向かう門からのアプローチに敷き並べられたのは、地場産の稲井石と呼ばれる敷石です。
現在では、これほどの大きさの稲井石は手に入れにくいため、敷地内にあったものを再配置しました。
新しく添えられた箱の内部、左手は玄関として使います。
箱の内部、右手はキッチンです。
室内
新しく添えられた玄関です。右手にある思い出の障子を開けると時を重ねた場所がよみがえります。
以前からあった建物の床レベルとの昇降に無理のないように、障子の手前にはステップが1段ついています。
玄関のガラスの向こうに見えているのは門からのアプローチです。
玄関にはキッチンへつながるドアがあります。
思い出と共に時を重ねた場所がよみがえりました。
左手にある帯の入った障子を開けると新しく添えられた玄関です。
障子を通して太陽光が思い出の場所に再び時間を刻みます。
思い出の庭との関係も未来につながります。
北向きの和室です。白い壁が障子を通した太陽光を導きます。
新しく添えられたキッチンの手前はベンチのように畳を敷き、ダイニングとして使います。
ダイニングでは腰掛けられる高さに畳が敷き込まれています。
新しく添えられたキッチンには窓際にベンチがあります。
いままでの思い出とつながっていて、新しい思い出を重ねることができる場所です。
キッチンには玄関へとつながるドアがあります。