SKM 須賀川の住宅

ファーストコンタクト

クライアントより突然に連絡をいただき、事務所にてお会いすることになった。
大凡のお話をお伺いし、私たちの住宅に対する考え方、仕事の進め方、一般的なの設計事務所との違いなどを、今までに手掛けた住宅の写真や、1/100程度のスタディ模型から1/20の詳細模型までを使ってご説明する。
ひと通りお話しすると、是非プレゼンテーションを受けてみたいとのお話をいただき、次回は現地調査にお伺いすることになった。

最後に「ちなみに、何処で私たちのことをお知りになったのですか?」と訊ねると、「『新しい住まいの設計2008年11月号』の特集記事(48周年、48人の建築家特集)で……」とのこと。

新しい住まいの設計2008年11月号

敷地

敷地模型
敷地模型

敷地は、福島県須賀川市の市街地に位置している。比較的広い道路の三叉路が合流する場所に、半島的に突き出した敷地である。
左写真の半島的な部分すべてがクライアントの所有地ではあるが、ボリューム模型として作ってある部分が母屋であり、今回の計画は、朱色にて色付けした部分への新築住宅の計画である。
敷地はこのようなほぼ三角形の形をしている。

30代の若いご夫婦と小学校一年生の娘さんと幼稚園年中組の男の子の四人家族である。

注)

今振り返ってみれば、今回のスタディは「住宅計画としてどう作るか」という通常の課題とともに、大きな課題として「主要交通路の合流地点にふさわしい、在り方はどういうものか」をずっと意識し考え続けていたと思います。
たとえば、このような交通のスピードの中に、唐突に、住宅スケールの玄関を出現させることは、イビツで異様な景観を作り出してしまうことになってしまうと思います。だからといって「車の通過スピードに見合うような」排他的強度を持つ物体を、この車の流れの中に置いたとして、それは人間が住むにふさわしいものと言えるでしょうか?
今回のスタディは、「主要交通路の合流地点」と「クライアントの要望にこたえる静かな内部空間」を無理なく結びつける手段(機能)としての外観デザインを追い求める作業だったようにも思います。
その観点での目星がついた時点で、そのほかの問題も一気に解決したように思います。

そうした試行錯誤を踏まえ、今回の「もうすぐ生まれる!」は、その観点に重点を置いて記したいと思います。また、「計画の概要のわかりやすい鳥瞰写真」」のほかに、「交差点からどう見えるか?がわかりやすい写真を添付しています。


スタディ+第1回プレゼンテーション

2009-03月-

敷地の形状が三角形なので、敷地を有効に使いきろうと思えば、自然と平面形は三角形に落ち着くだろうと考え、先ずは、この敷地の中で安定した外部空間をどう確保するべきか、を考えました。
交通量の多い交差点での計画なので、騒音や排ガスのことを考慮に入れると、道路に面しては基本的に開口部を設けず、中庭に頼った内部空間がふさわしいだろうと考えました。
内部空間でどういうことができ、何が出来そうにないか、をイメージしながら幾つかのスタディ模型を作りました。

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スタディ当初は、「完全な中庭型」ではなく、「一部を塀で囲ったような形式」で考えを進めていました。このような形の最大のメリットは、室内空間をコンパクトにまとめることが出来る点にあります。
しかし、内部空間に必要な諸室を配置する際に、どうしても不自然な壁を複数設けざるを得ず、スマートなゾーニングとして成立しないことが分かってきました。そうなると(実際に広さ以上に広く感じるような)ゆったりとした空間構成にはなりません。
また、どうしても二階建てになってしまい、そのため、建物全体が、道路に対して立ちはだかってしまっている感じにならざるを得ない予感がしていました。

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そうして結局、住宅の真ん中に中庭を配置する案を1回目の提案として提案することにしました。
スタディ当初、この案を避けてスタディを始めた最大に理由はは、「敷地が三角形であるため、中庭のプロポーションが余りよくないのではないか」「中庭のすぐ向こうにガラスや壁が立ちはだかっている感じになってしまい、広く感じられないのではないか」と危惧したからですが、いろいろと検討を進めてみると、やはりこの形式が最も良いと思えるようになって来ました。

プレゼンテーション

模型右側の黒い吹き抜け部が「玄関兼階段室」、また写真左側の黒い部分も階段室、その真ん中の二階に部分がリビング、その下階に寝室やクローゼットを配置している。

中庭の向こう側にはキッチンがあり、リビングの床とシンク天端が同じ高さになっている。クライアントには、リビングとキッチンの距離の感じを気に入っていただいた。

キッチンから見たところ。すごくラフな模型だが、主要な空間の関係性だけを表現している。

写真右が子供部屋。子供部屋は中庭から少し沈んだ高さに配置した。

プレゼンテーションを行った結果、設計契約をして正式に設計業務を始めてほしいとのお話をいただいた。


スタディ+第2回プレゼンテーション

2009-04月

クライアントに概ね気に入ってはいただいたものの、私たちが提案した案には「言いようのない居心地の悪さ」もあるたように感じていました。敷地の形状から来る三角形の鋭角せいからか、やたらと、道路に対して攻撃的というか排他的というか、落ち着きが良くない気がしていました。
どうすれば、その姿勢を和らげることが出来るのか、分からないままに、それを次のポイントとして再度スタディの作業に取り掛かりました。
先ず最初に取り組んだのが、屋根の形状です。

(このあたりのスタディ模型は、もっとたくさん作ったのですが、現存するものが少なく、この程度しか残っていません)

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最終的に今回のプレゼンテーションで、提案したのは、最後の模型を図面と模型にまとめたものでした。
屋根を道路に向かって大きく傾斜させることで、道路に対して対峙する感じを和らげようと考えたものでした。大きな屋根の形状をデザインし、その屋根をメインのファサードとして扱ってやろうと考えていました。また、内部から見るとその大屋根の内側が内部空間に対して象徴的な役割を果たしており、一枚の薄く大きな屋根によって、「自動車のスピードにルール付けされた空間(外部空間)」と「静かな内部空間」がスマートに分離/同居している、といった構成が面白く、今後成長してゆくのではないかと考えていました。

屋根に大きく開いたスリットの部分は、中庭になっています。


それ以降のスタディ

2009-05月以降

さて、上のようにプレゼンテーションをし、その路線でしばらく検討を重ねたものの、やはりどうにも良くない気がしてきました。
スタッフと相談し、ひとつの案に固執せず、もう少し幅を広げてもう一度はじめてみよう、ということになりました。
ここで、「明確な方針」とはいえないような、曖昧で、しかしある意味では確固たる方針(というか仮説)が、立てられました。

「今までうまくいかなかった最大の原因は『全体をひとつのボリュームとして構成』しようとしているからではないか」
「複数のボリュームでの全体の構成を試行錯誤してみよう」

下に並べているのはそういった試行錯誤の途中の諸々の模型たちです。

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そうこうする内に、(下の写真ような)三つのボリュームで全体を構成する方式のほうがより自然に全体が構成できるのではないか、と考えるようになりました。
三角形なので、それぞれの辺に従ってゾーニング構成を行い、その結果、三つのボリューム構成となる、という、単純な発想です。
道路側から、全体の構成が透けて見えるように、ボリュームに高低差をつけたり、屋根を斜めにしたりといろいろと試行錯誤しました。

騒音や排ガスへの対策上、道路側に大きな窓や開口部は作らない方針を採っている以上、こうした操作を慎重にしなければ、「得体の知れない施設」になってしまう恐れがあります。
建物の大まかな構成を、かすかに示してやることによって、そういった問題を回避しようと考えていました。

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このあたりから、全体のボリューム構成は、二つのほうが美しいと考えるようになりました。
「道路に面した低く細長い棟と、セットバックした高い棟」といった構成です。
理由は、いろいろとありますが、ここではあえて言わないことにします。

「良い」とか「美しい」とかといった感覚は高度に文化的な物事なので、つまらない理屈をつけて安易に共有してしまうのは良いことだとは思いません。

つまらない理屈をつけなくても、「良いね」とか「きれいだね」といった言葉だけで「ある感情」が共有できることが理想だと思っています。

この計画の途中でも、その良い例がありました。
このクライアントは、私たちが迷い暗中模索していたある時点までは、あまり多くのコメントを発せず、注文もつけずに見守ってくれていましたが、「ある案(最終案にいたった案)」の模型を見てしばらくした後に、
「私たちはこの案が良いです」
とはっきりと意思表示されました。
私たちのほうでも、この案を作っている最中から「この案が最も良い」ことは見えていました。
その理由をくどくどと説明することなく、直感として「良い」とか「きれい」といった言葉を共有できることは、本当に素晴らしいことだと思います。

すいません。……話がそれてしまいました……

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このあと、スタディの最大の関心事は、内部空間の構成の仕方に移ってゆきます。
この住宅の内部空間は、基本的に、「リビングダイニング」、「子供室」、「夫婦の寝室」と、それらの真ん中に位置する「中庭」によって構成されていますが、どれらの空間をどう分節し、どう連結するか、によって、これらの「内部空間の見え方」や「空間の質」が大きく変わってくると考えました。

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プレゼンテーション

結局、、これらの案の中で、最も良いと思えたものを1/50の模型にて再度検討し、クライアントへのプレゼンテーションを行ったところ、
「この案で進めたいです」
とはっきりとお返事をいただいた。

その後

その後は、1/50の模型に重点を移して、仕上げ材料や、細部に関しての検討を行いました。
(1/50のサイズの模型を十個前後)


最終案 1/30模型

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