はじめに
「八木山の住宅」は、最初の構想から完成するまでに、5年近くの歳月を費やしました。何度も考え直しては、図面を書き直し、模型を作り直しましたが、振り返ってみれば、実現出来たのは、たったこれだけのことです。特別な材料を使っているわけでも、特別なことをしているわけでもありません。
しかし、わたしにとってもっとも思い入れの深い住宅です。
庭と建築の調和について
「八木山の住宅」は、元からあった庭を中心に設計を進めました。庭を取り巻く空間を壊さないように建物を低く抑えてあります。この写真で地上に見えているのは、実は2階の部分です。1階はこの下に埋め込まれています。堀のようにオープンカットしたその下に、プライベートな空間が隠れています。(しかし、平らな土地をわざわざ掘ったわけではありません。元の地形が緩やかな南斜面でありました。この住宅は反対側から見れば2階建てになっています)
水平のラインを長く通すこと(庇のラインを長く通すこと)は、庭を魅力的に建築と調和させる方法として強く意識しました。建物と庭の間に設けた「堀」は、下階のプライベートな空間に「緑や日照、通風」をもたらすと同時に、庭と建物の間に適当な距離を確保しています。
備考
「堀」の外周部には、お茶の木を植えてあります / 庭の細かい石は「豆砂利敷き」
庇を通して見える庭は、ほぼ、昔からあったままです。
軒樋は付けず、下の落滴部分に排水溝を設けて雨水の処理をおこなっています。
アプローチ
「堀」に架けられた「ブリッジ」をわたって、玄関に至ります。
備考
玄関扉は「青檜横張り+クリア塗装」/その横の壁は「本漆喰塗」/屋根はガルバリウム鋼板0.4竪ハゼ葺き/板張りの外壁はキシラデコール(ジェットブラック)塗
玄関
玄関扉をあけると、真正面に保存緑地の雑木林が借景出来ます。真正面には立派な枝振りの山桜があります。その左脇にはモミジが自生しており、春と秋には見事な景観を与えてくれます。
この建物では、こうした視線の通り抜けを意識して、何重にも構成しました。行き詰まりがなく、自然の中に視線の延びて行く伸びやかな空間を、と考えていました。
備考
デッキは「杉材の小端立30×60@45」、一部ハイヒール対策に5mmのスキマで板を貼っています。
(※小端立とは、木材、瓦、石などを長手方向を垂直に積んだり並べたりすることです)
玄関土間は「玄昌石(斜め貼り)」 / 右手の玄関収納の扉は「シナフラッシュ+ウレタンクリア塗装」
廊下
右手が玄関、右手前が和室です。正面に進むと、リビングです。そのむこうが「メインの庭」になります。ここも、視線が通り抜けます。
左手の窓の下を見下ろすと、こちら側は普通の二階建てになっていることが分かります。1階の外壁がすこしだけ見えますが「コンクリート打ち放し(パネコート)+浸透性撥水材」です。今回の主体構造は「鉄骨造」であるため、「揺れ防止」のため、1階を鉄筋コンクリートで固めています。(鉄骨造は変形量が大きいので、内部の仕上げ壁のひび割れ防止に採用しました)
備考
床フローリング材は「青檜 無垢フローリング 無節」/窓台は「ナラ集成材+ウレタンクリア塗」
内部の白い壁は「PB12.5+9.5+パテ処理の上AEP塗」(割れ防止の為、二重貼りにしました)
天井は「PB9.5+パテ処理の上AEP塗」
この廊下とリビングの間の壁(左側)には壁と一体化した「扉」が用意されており、
冬季の暖房期間には暖房区画を形成するようになっています。それ以外の期間には、扉は壁に仕舞い込まれています。
リビング ダイニング
上の写真から真っ直ぐにリビングに入り、左手に見える風景です。この写真の左側には大開口のサッシュがあり、デッキ、メインの庭とつながっています。
窓は、それが窓だと意識された途端に「わざとらしく、かっこ悪く、自然でない」ものになってしまうものです。だからといって大きく、外の風景を取り込めばよいかといえば、そういうものでもありません。風景の切り取り方にはかなり神経を使いました。
また、正面に見える飾り棚の扉にはガラスを用いましたが、これは、季節毎に雑木林の色を部屋の中に導きいれることを意図したものです。春には新芽の黄緑色を、盛夏には濃いもっさりとした緑色を、秋には赤や黄色を、部屋の中に引き込み、部屋は季節の色に染まります。
備考
正面 飾り棚収納の下部に隠れているのが「深夜蓄熱式暖房機」/その上のガラリの奥が「エアコン置場」
窓台は、座布団を置いてそのまま腰掛けられる寸法でつくっています。窓台の下は収納です。
リビング ダイニング
上の写真からすこし左に向いたところです。
このデッキがそのまま庭につながっています。
上の写真と併せて思い浮かべてもらいたいのですが、片側に「地面と直接つながった安心感(水平的な広がり)」があり、もう片側に「宙に浮いて雑木林の木々に面している浮遊感(立体的な広がり)」があります。そのふたつの異なった感覚をどう両立させるか、をずっと考えていました。ふたつの感覚が、同時に存在している「不思議な感じ」は、この住宅の内部空間を構成する上で、一番重要な要素だと思っています。
内部空間に関しては「これしか考えていなかった」かもしれません。
備考
正面 キッチン収納の扉は「シナフラッシュ+ウレタンクリア塗装」/引き込み扉等、いろいろな工夫をしています
左側に見えるサッシュは「ヘーベシーベ」(ドイツ製の大開口サッシュ)三枚引き違い
庭に面したデッキ
庭に面したデッキは上段の幅が「2.4m」あり、庇の出寸法と揃えています。2.4mという寸法は慎重に選びました。
「夏の日射」「冬の日射」「雨に濡れずにゆったり使えるデッキの最適な寸法」に「庇先端の高さ」を掛け合わせて、考えました。一般的にこうした寸法としては「一間(1.8m)」が良く使われますが、もう一越え、ゆったりした感じを目指しました。「下段のブリッジ部」は更に庭に向かって伸びています。
備考
デッキは「鉄骨の梁」によって支えられています。
また上の写真の左側は、庇から鉄骨の「吊材」を下ろして、下のデッキを支えています。
デッキの下側
デッキの下側には「斜面状の庭」が広がっており、寝室や家事室、階段室が、そこに面しています。「斜面状の庭」は下階の諸室にプライバシーと通風や採光、緑の景観、落ち着いた雰囲気をもたらしています。
備考
「斜面状の庭」には地被類の植物が数種(フェデラや熊笹など)が植えられています。
直接の日照が少なくても生育可能な植物を選んでいます。
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