「拠って立つトリデ」をどう説明するか悩んでいるうちに,「もうすぐ生まれる!」的な説明をした方が良いかなあ,などと思い始めて少し経ちます…。
でも,最近はそういうつもりで模型を残していないし,何と言っても,2022年3月に起きた地震で,事務所の本棚などが大きく崩壊し,結構な数の模型を清算してしまっています。果たしてどれくらいの数の模型が残っており,何よりも,「残った模型たちで,思考の軌跡が掘り起こせるか」がすごく心配です…。
事務所の中を漁ると幾つかの模型の残骸が出てきました…。うーん,半分以上,捨ててしまっていますな。
しかし,まあ,やってみましょう。先ずはこのブログで断片的にやってみて,うまくまとまったら『もうすぐ生まれる!』のライブラリーに入れます。
プロローグ/住宅設計開始前
うちの場合,土地取得の前から声をかけていただいて,一緒に土地探しをするケースが結構多いのですが,この場合もそうでした。
最初に連絡を貰った時には,(最終的な場所とは)全然違う場所に土地を購入して建てようとしており,この日だけでも3カ所ほどの候補地を回りました。やぶ(地目で言うと「山林」)に面した不思議な土地や,まちなかのまっとうな住宅地の中の区画など,いろいろな候補地がありました。どれも一長一短で「ここが難点だけど,こういう特徴のある土地なので,こういう建て方をすると面白いのではないか」などなど,思いついたことをコメントしながら一緒に廻りました。
クライアント曰く「本当に,土地によって建て方が全然違うんですねえ…」と感心されてのをに覚えています。
そうなんです。建築なんて,主題の見い出し方でぜんぜん違う答えが出てきます。
「建築するクライアント」「建築される土地」「その間を結ぶ条件(予算や法的,構造的制約など)」建築を生み出し,制約する諸条件があり,それを「どう組み合わせて,固有の『問い・主題』を組み立てていくか」が重要なんです。その「主題の立て方と,主題への回答」こそが建築的なんです。
なので,敷地が変わったり,クライアントが変わったり,あるいは家族構成が変わったりすると全く違うものになってしまいます。
すいません,少し脱線してしまいました…。(この部分はあとで削除かな…)
m(__)m
さて,有力な敷地が見つかるたびに何度か現地に通い,一緒に土地を見て回りましたが,何となくクライアントの心を決心に導くような土地が現れてこず,という感じでした。
どの土地を見ても「いいんだけど,決め手がないんですよね…」
なんとなく「ここで生活しよう」とクライアントの心にピンとくる何かがないと,こうしたことは,絶対に前に進まないんです。
私がいくら内心では「ここだとすごくいい建築が出来るのになあ」と思い,クライアントに一生懸命勧めてもクライアントの心にピンとくる何かがない限りは,「ふーん,そうですかあ」なーんて感じで…,つまり,そういうもんなんです。
この土地に決まるときにも,まさかこんなまちなかの商業地に決まるとは思ってもいませんでした。
でも,クライアント夫婦が一致してピンと来はじめると,ぐんぐん進んでいくんです。雪崩を打ったように…。
プロジェクトってそういうもんですよね。
敷地最終候補地の浮上
何度か通っても,何となく決め手がなく,1年以上も決まらない状態が続いていたのですが,しばらく連絡が途絶え,「そういえば,あの夫婦,どうしているんだろうなあ」などと思い始めていたころに,
急に電話があり「ちょっとした縁があって決まりそうな土地があるんだけど,…」ということでした。「気がかりなのは,(地方都市のわりには)結構な『まちなか』なことなんですよね…。ここでちゃんと住めるのか不安なんですが,ちょっと見てもらえないだろうか?」
ということで早速行ってきました。
敷地に行ってきた!
クライアントの指定した住所に行って,敷地を一緒に見てきました。
前面道路
360度の見渡し
「かなり広いですね~」などと雑談をしながら敷地を廻ります。
周囲はパチンコ屋さんの駐車場だったり,銀行の駐車場だったり,建物に周囲を囲われているわけではないのですが360度から視線にさらされてしまう敷地です。
この半分を住宅用敷地として活用する計画です。
「ここで大丈夫でしょうか?」とクライアント。
「でも『ここに住もう』って,おもっているんでしょう?」
「うん…,そうですねえ…」
「そういうお気持ちがあるんだったら,もう何とでもなりますよ。建築的には何とでもなりますよ」
「そういうもんですかねえ…」
「この仕事をしていると痛感するんですが,住む人の気持ちが固まるかどうかが大変なんですよ。そこの決心がついてしまえば,解決できないことは無いんですよね」
というようなやり取りを経て,この敷地で案をつくってみることになりました。
スタディ/建築計画案の検討
建築条件として最大のポイントは「完全な二世帯住宅」であることでした。
2つの世帯が,どういう関係で,どういう距離感で生活するかについて,快適な建築空間として解決される必要があります。
また,昨今の物価上昇傾向から見て,予算内に収めるためには出来るだけコンパクトにまとめたいという気持ちも多くありました。
ウッドショックやら,メタルショックやら,あるいは,人手不足やら,円安やら,いろいろな理由がくっついて,メーカーにも各業種にも工務店にも「値上げを抑えよう」という気持ちがダムが決壊したように,壊れていっているように思います。
でもまあ,これまでの日本が異常だったと言われているようですし,その方が正常なのかもしれませんが…。
あ,また脱線していしまいました…。
とにかく,
「完全な二世帯住宅」であること,「コンパクトな住宅」にまとめること,そして,敷地の特性上360度からの視線に対して防御的であり「囲われたプライバシーを持つ住宅」であること。
この3つをどうまとめて,魅力的な住宅に仕上げて行くか,がポイントでした。
ということで,あれこれと空想をしながら,「1/200」の模型をいじりはじめます。
すぐ下の模型を元に簡単に敷地を説明します。(この模型上,上側が北,下側が南です。)
接道(敷地に接する道路)は敷地の南側(この模型で,下側)にあり,敷地の下半分は別の用途の建物(商業施設)が建築予定です。この時点では敷地分割はされていませんでしたが,旗竿敷地になることは決まっていました。そうすると,この住宅は,様々な用途の商業施設の駐車場で囲まれることになります。
敷地の写真で見ると,まちなかとは言え,一見「開けた場所に住宅が建つ」ように見えるのですが,周囲が開けているがゆえに,更に多くの視線にされされている場所でもあるのです。
1/200模型スタディ
最初のスタディ模型
1/200の模型では,図面なんかなくて,アバウトな感覚だけで,スタイロフォーム(下の模型の水色の塊/建築の断熱材です)を切り出して並べて行きます。
ここで頭にあるのは,先に上げた「完全な二世帯住宅」,「コンパクトな住宅」,「囲われたプライバシーを持つ住宅」の3つだけに絞り込んでいます。
第1模型 2021年10月頃
1/200
- 模型で上側(北部分)のボリューム:オモヤのリビング
- 模型で左側(西部分)のアーム(腕状に伸びた部分):オモヤの寝室や水廻り
- 模型で右側(東部分)のアーム:ハナレ
やはり最初から考えていたのは,中庭と,中庭を合理的に囲い込むための住戸の配置です。
最初期案では(上記模型で)右の住棟にハナレを配置し,右の住棟との隙間から,まず最初に中庭に入ってからそれぞれの住戸にアプローチするイメージでした。
赤鉛筆でラクガキしていますが,右の住棟のハナレを「内側に曲げて」,外から直接中庭が見えないようになどと考えていたようです。
スタディ模型②
オモヤとハナレのアームのくっつき方を何度か模型にした記憶がありますが,今は残っていません。
この模型から,ハナレの構成を「く」の字に曲げて,具体的に考え始めています。これによって,ハナレが複雑に囲い込まれ,中庭に対して多様な触れ方が可能になっています。
第2模型 2021年10月08日
1/200
- 模型で上側(北部分)のボリューム:オモヤのリビング
- 模型で左側(西部分)のアーム:ハナレ
- 模型で右側(東部分)のアーム:オモヤの寝室や水廻り
この1/200模型が(残存する模型の中では)最も最終案に近いのですが,微妙に迷走しているようです。
1/200の模型検討としては,このあたりで十分です。平面なんか書かずに,ボリューム構成だけでこの住宅に何が出来そうかを考えていきます。
でも,おおまか建築の骨格も予算感も全部このくらいで方向性が決まるんですよね…。
スタディ模型③
その後,第3スタディ模型を作ったはずなのですが,オモヤのリビングとハナレを対にして対峙させようと考えていたようです。
(模型の敷地上にそんな落書きが見えます…)
第3模型 2021年10月中旬頃
1/200
- 模型で上側(北部分)のボリューム:オモヤのリビング
- 模型で左側(西部分)のアーム(腕状に伸びた部分):ハナレ
- 模型で右側(東部分)のアーム:オモヤの寝室や水廻り
たぶんこの後に,いくつもの模型を作ったように記憶していますが,あまり残っていません。コロナ渦ということもあって,上の模型も自宅で見つけたので,自宅のどこかに埋もれているような気もします。
最終案はこれとは違っていますが,この段階ではこの案が良いと思ったようです。このあと,スケールを上げて1/100に移行し,ラフに図面(というか間取レベル)を引いてみながら,どんどん模型にしてゆきます。
スタディ模型②と,スタディ模型③を折衷した案で,1/100での模型スタディが始まっていますので,たぶん,ここの空白に,そういった1/200模型があった筈です。
1/100スタディ スタディ模型④⑤⑥⑦
ここから先は,1/100の模型での検討です。
第4模型 2021年10月20日
1/100
- ハナレは「くの字」ですが…,
- 上から見た写真でも分かるように,「1/200の模型③」で見出した『オモヤとハナレと対応関係』を考えに入れて1/100模型を作成しています。
第5模型 2021年10月26日
1/100
- この5番目の模型でも分かる通り,この模型までは,「オモヤとハナレの対応関係」「整形の中庭」にこだわってたようです。
- 変形敷地に対応したプランなので,「どこかに不整形な部分がある」のは仕方がないのですが,それをどこにすれば建築的に良くなるかを模索しています。
この先の模型で「オモヤとハナレの対応関係」でない空間的面白さを見つけています。
第6模型 2021年10月27日
1/100
- この模型になって,最終案にぐっと近づいています。
- 「不整形な部分」をオモヤリビングに吸収させるのが最も良いことに気づき始めています。
- 細く狭い部分に「不整形な箇所」を持ってきてしまうと,プラン状不合理な部分がたくさん出てきてしまいます。
形としてはおおよそ整ってきていますが,下の模型では,ハナレリビングの屋根を持ち上げたり,どの空間とどの空間を対応させるのかなど,まだまだモソモソと手探りしています。
第7模型 2021年10月末日ころ
1/100
- この模型になって,最終案にぐっと近づいています。が,まだ玄関をどうすればよいのかよく分かっていませんでした。
プレゼンに向けた「1/50模型」
この模型は,ブログを見たクライアントが「うちにも埋もれていました」と言って持ってきてくださったものです。
やはり,1/50になると,少しづつ内部空間が見え始めます。
1/30になるともっと内部空間とデティールが見えてくるのですが,逆に敷地周囲との関係が分かり辛くなります。
なので,うちでは1/30模型は現場に入った段階で着手します。(一部例外ありですが…)
第8模型 2021年10月29日
1/50
- この案で初めて玄関ポーチがついた。
- このときには,(面積を最小に調整する,という趣旨もあるが)室内の壁面を出来るだけ整形にし,その矛盾をその外に追い出す,という方針で調整を行っていたように思う。
- このほかの物件でも,物価高騰による予算オーバーの傾向が顕著になっていたため,面積削減に躍起になっていました。
- ちょっとしたことでハナレの面積が大きくなってしまうことを心配していました。
プレゼンテーション
この模型案を元に資料をまとめ,無事,設計を進めることになりました。
っと,いうことでこんな感じでやってみようと思っています。
また明日にでも続きをupします。
m(__)m
m(__)m
m(__)m
中途半端で申し訳ございません…。
最後の1/30模型 /仮)拠って立つトリデ
が,少し間の模型をすっ飛ばして,何故かここで,最後に作った「1/30模型」を掲載します。というか,ちょうどクライアントとの打合せで,打合せテーブルに広げたので写真を撮ったついでに,ここにUPしようかな,という程度の中途半端な思い付きです。はい。
結構巨大な模型なのですが,こうして写真に撮ると大したことありませんね…。
このスケールの模型になると,外壁の目地や,雨樋のデティール,ベントキャップ(換気扇の排気給気口),ガルバリウム鋼板による水切りなど,実際に作るすべての細部を再現し,確認しています。
続いて,屋根を取った写真です。
つづく
「空間の結節点」の作り込みによる空間性能の向上を意図した住宅事例
空間の結節点としての玄関ホール
玄関ホールに比重を置いてます
空間の結節点としてのポーチ
以上
T島
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