しばらく、工事の進捗をブログに上げていましたが、「そういえば、ちゃんと説明していなかったなあ」と思い返し、スタディ模型の残骸を元に、どういう建築なのかをすこし説明します。
ここにあげる模型写真は、現場に入った段階で内部検討用に製作し、はがしたり壊したり、作り直したりした、つぎはぎだらけのものなので、「見苦しい」点はご容赦ください。この施設はこうした施設の中では結構な大型のもので、700㎡以上あります。なので、設計段階では、1/200の模型を中心にして、1/100までを製作しましたが、模型作業が追いつかず、現場に入ってからようやく、1/50模型を製作しました。また、中を覗いて検討するために、また、現場への運搬のために、分割して作ってあります。更には、外観の検討は1/100で終わらせたため、純粋に内部検討用なので、外部に関しては中途半端というか、辻褄を合わせることはしていません。たとえば、2階部分は作っていなかったりとかします。この規模なのに、住宅並みの繊細さでつくっているがために、いろいろと苦労をおかけしています。
こうした使い倒された模型を見るたびに、アメリカ軍によって徹底的に分析された「捕獲されたゼロ戦」を思い出します。
米軍は、1944年に零戦52型をサイパン島で捕獲し、米本土に持ち帰って、破片になるまで徹底的にテストし倒したそうです。
ガタガタに使い倒された模型を見るたびに、そうしたエピソードを思い出します。
施設の全体構成について
この施設は、幾つかの要素がかなりち密に組み合わされていて、何をどこから説明したらよいのか、難しいのですが、頑張ってやってみます。
施設の基本構成は、4つの棟によって構成されています。「生活介護棟(上図/手前)」「短期入所棟(上図/奥)」「浴室棟(上図/右側)」「事務棟(上図/左側)」です。
更に、それぞれの棟の間に風除室が配置されており、「中(中庭と東西南北それぞれの施設外部空間)を外をつなぐ結節点」にしています。
この建築は、上記の4つの棟によって構成されていますが、実は、その結節点に重点を置いて建築空間的な面白さを獲得しようとしています。
下の写真で、その「風除室/中を外をつなぐ結節点」を説明しますと…。
正面エントランス
右下が生活介護棟、左下が事務棟で、その間の空間が正面エントランスです。この写真の下側に駐車場、その更に下側で接道しています。正面エントランスは、大きな屋根に覆われた軒下空間になっており、ある時間に集中して、利用者を受け入れる施設の特性に対応した空間になっています。
また、この2つの棟を結ぶ役割と同時に、正面の庭と中庭を結ぶための結節点でもあります。
南風除室
この写真の右下が浴室棟、左下が生活介護棟です。その間に配置されているのが、南風除室です。
中庭からこの南風除室を抜けるとその先に遠景の山並みが見え、左に折れると素敵なカフェ(浴室棟南側から東側にかけて)が用意されることになっています。
カフェについては、前のブログでも触れています。
2022-10-20「京都黄檗」の回です。「京都黄檗」って読めます???
浴室棟には、広い浴室が2室用意され、大きな機械浴槽が設置されます。
東風除室
写真右下が、短期入所棟、左下が浴室棟、その間に東風除室があります。
短期入所棟の東側(写真右下)には、ビオトープが整備されます(予算の関係上、数年後完成の予定です)。現在、ビオトープには背後の山から澤水がひかれています。なんと!法人さんの職員さんの手作りです。
そのビオトープと中庭を結んでいるのが、東風除室です。
この短期入所棟は、「医療型短期入所」という特殊な施設で、福祉と医療の制度上のはざまで起こるたくさんの悲劇や苦悩を解消するための、制度を跨いだ施設です。多分東北では初めてだとのこと。
また、これまでの重度の障碍者のための短期入所施設は病院的なものが大半を占めるらしく、その現状を苦慮して、「ヴィラ型滞在施設」を標榜しており、10室あるすべての個室から素晴らしい景観が臨めるつくりとなっています。
重度の障碍者のための素敵な空間づくりと、重度の医ケア者の見守り体制をどう確保するかというスタッフや施設側の苦慮の果てに、どういうものが出来あがるか、是非見てもらいたいと思っています。入所型福祉施設におけるプライベートな快適性と見守りし易さについて、ぎりぎりの選択を詰めています。
北風除室
写真右が事務棟で、左下が短期入所棟です。その2つの棟をつなぐ北風除室からは、写真左下のビオトープに出ることが出来、中庭とも連結されています。
また、写真右下の部屋は、診察室です。医療的ケアが必要な利用者さんが、ここで医師の診察を受け、それによって、ここが福祉施設であるにもかかわらず、医療的ケアを受けることが可能になります。
素人目にしてみれば、大したことのないように思いますが、こうした医療と福祉の間の壁はかなりぶ厚く、その突破のために並々ならぬ多大な労力が掛けられています。そのほんの一端ながら、この法人さんの意気込みとそれに係る労力を垣間見ることが出来ました。また、これによって救われる障害のある方やそのご家族もかなり多いそうです。
幾重にも重なる多様な回遊性
さて、ここから下の記載は「どのような福祉施設であるか」とは別の、「建築的にどのような価値をつくろうとしているのか」についての記述です。依頼を受けた建築家としては、その通りの機能を発揮する建築であると同時に、上に述べたような法人さんの払った多大な労力を建築的魅力に結実させなければなりません。
このように、4つの風除室が、この施設の魅力や「アクティビティ(活発な活動)」を生み出す鍵となっています。
施設の利用者さんは、来所すると、(外の眺望を得る以外は)あまり外とのつながりを感じる機会はないと思われます。しかし、この施設に来るとき帰るときといった、ちょっとしたときに、庭に出、森を巡る機会を得ます。そんなときのために、4つの風除室が、4つの棟やいくつもの庭と風景を連結し、多様な回遊性を生み出しています。
この4つの風除室によって、ふつうは施設の脇役でしかない庭や風景が、施設の中の主たる場に格上げされ、空間的に室内と同等の価値を持つものになっている筈です。(まだ完成していないので「筈です」という言い回しにしています)この「外部空間が内部施設と同等の空間的密度である」ことが、福祉施設的でない「森に埋もれた福祉施設」を実現してくれるのだと考え、設計を進めました。
さらに、もうひとつ。設計上かなり注力したのが、「空間の『守られ感を確保した上での透明感』」です。ここに入所する利用者さんたちは、自分の身体が守られている安心感の中で施設の透明感を体験することになります(まだ、完成していないので「たぶん」ですが、…そうなります)。
「自分の身体が守られている中で獲得する空間の透明感」を実現するために、「(外部と認識する空間との距離を稼ぐ)大きな軒下空間」や「庭に埋もれる寸法感覚(低さをデザインしたスケール感)」など幾つかの建築的な技法を駆使しています。
T島
あとがき
いつも、勝手に、勝手な作品名をつけるのですが、この施設の名称を「仮称)風をつなぎ、森をめぐるヴィラ/福祉施設」にしようかなと思いはじめています。「風景をつなぎ」が正式な意味合いで、そうしようと思っていたのですが、なにか、この施設を作り上げるときの関係者の熱意というか疾走感を表現するには、「風」の方が良いかなあと思っています。
余談…
この投稿は、「第2回東北建築大賞2022」の第2次選考(リモート面接選考)を受けながら、その合間に投稿したのですが、無事、2次審査を通過したようです。良かった!!
「みんなの交流館 ならはCANvas」です!