みんなの交流館 ならはCANvas

みんなの交流館 ならはCANvas

福島県楢葉町
集会場(復興拠点施設)

主体構造

鉄骨造(一部木造)2F建て

受賞

  • 平成30年度全建賞(全日本建設技術協会)
  • 東北住宅大賞2019一般建築部門「優秀賞」
  • 日本建築学会「作品選集2020」

メディア

  • 建築年鑑・YEARBOOK 2018
  • 新建築2018年10月号(新建築社)

東日本大震災での原子力災害により全町避難した自治体の中で、はじめて避難指示解除となった福島県楢葉町に建つ復興の拠点施設です。4年半にわたる避難指示が終わり、帰還が始まったばかりの状況の中で、コンパクトタウンとしてこのエリアに集約される予定の商業ゾーン、災害公営住宅と共に計画されました。ほとんど誰も住んでいない中で、帰還予定者も含めできるだけ多くの方に集まってもらい、意見を拾い上げながら、彼らと設計コンセプトを共有していくことから設計作業が始まりました。たくさんの意見や想いを設計に反映させるべく、お茶のみワークショップが完成までに計9回開催されました。

お茶のみワークショップ

初回ワークショップでは、楢葉への想いを語ってもらうところからスタートして、「交流館ってなに?」というテーマで意見を出していただきました。お茶やお菓子をいただきながら、久しぶりに再会した人との会話もはずみました。
出来上がる建物だけでなく、その設計・建設プロセスが人と人との出会いを生み、復興への確かな一歩となっていることを感じた一日でした。

みんなで敷地にも行き、感じたことを話し合いました。
このころはまだ造成工事も始まっておらず分かりにくいですが、写真左側がコンパクトタウンになります。方位や風、道路やまわりに建つ商業施設、広場との関係などをイメージしながら、みんなで考えます。

お茶のみワークショップで話し合われたことは、「交流館だより」としてまとめられました。
参加した人は自分の言った意見の確認ができ、参加できなかった人は何が話し合われたか分かります。
次回開催のお知らせも兼ねている「交流館だより」は毎回、町内全戸に配布されました。

ワークショップ#2~4

第2回ワークショップでは、カードを使いおおまかなゾーニングについて話し合いました。カードには初回ワークショップで出た意見をもとに様々な活動が描かれています。カードを大きな敷地図にレイアウトし、さらにイメージが膨らんだ方はポストイットを貼ったり、直接描き込んだりしました。
面白いのは、4つのテーブルに分かれて話し合っていたのに、大きなコンセプトは似ていたことです。もちろん各案に、それぞれの個性的なアイデアや発見がありますが、みんなが大切だと考えていることは驚くほど一致していたのです。そこで以降の設計でもずっと大切にする、4つのコンセプトがまとめられました。

  1. 町内外、世代を超えて人が集い、出会い、交流する場
  2. まちの目印、復興の象徴となる場
  3. 楢葉らしさ、情報、震災の記憶を発信する場
  4. ひとりでも誰とでもゆっくりと過ごせる場

みんなで考え話し合うことで、設計チームにもぼんやりと建物が見えてきていました。

第3回ワークショップには、内部が覗ける大きめの模型を持っていきました。今まで話し合われたことを再確認し、そこから導かれた案について説明をしました。再度、具体的な使い方のイメージや意見をもらいブラッシュアップしていきます。

第4回ワークショップには町長もいらっしゃいました。
案がまとまり、みんなの了解が得られたので、ここまでが建物の設計を話し合うワークショップでした。その後、急ピッチで実施設計をまとめていきました。

ワークショップ#5~9

さて建物の設計が完了しても、お茶飲みワークショップは継続しました。「みんなのリビング」と名付けた、誰でもふらっと立ち寄れるスペースに置くソファや本棚などの家具について話し合ったり、建物まわりの広場の作り方について話し合ったりしました。県外に住む学生さんに新しい目線で、交流館を楽しむアイデアを考えてもらうというお茶のみワークショップも2回おこなわれました。

みんなで現場見学もしました。写真右奥で鉄骨の柱に、木製の梁を架渡す工事が進行中です。雑草が生えた田んぼだった敷地に、次第にコンパクトタウンが現れてきています。造成やインフラ、商業施設の建設、そして交流館の建設、さらには太陽光発電など様々な工事が同時多発的に進みました。お茶のみワークショップもコンパクトタウンの完成を見据え、徐々に「どう活用するか?」、「やってみたいことはなにか?」という運営面での話し合いにシフトしていきました。
こうして2018年7月30日に、ならはCANvasがオープンしました。

全景

全景

ドローンより空撮です。
中央にならはCANvasの大きな屋根が見え、手前には円弧が寄り集まったようなパーゴラが見えます。
左手奥はスーパーや飲食店などが集まる「ここなら笑店街」です。右手には緑地広場が見え、
道路をはさんで奥には、災害公営住宅がひろがっています。

階段デッキと緑地広場

階段デッキと緑地広場

南側、緑地広場から見ています。
木製の梁を格子状に積み重ね、大きく軒を出した象徴的な佇まいです。

階段デッキと緑地広場

南西コーナーです。
緑地広場からはは階段状のウッドデッキと、スロープでアクセスできます。スロープの横の薄いグレーの部分は、ワークショップでアイデアが出た足つぼ舗装が採用されています。
建物の2階がそのまま突き出たようなデザインの展望テラスからは、「ここなら笑店街」が一望できます。

階段デッキと緑地広場

南東側です。
緑地広場とつながる階段デッキは、ステージとして屋外コンサートなどにも使われています。オープニングイベントでもステージとして使われました。逆に階段デッキに腰掛け緑地広場を見れば、今度は観客席として機能します。

階段デッキと緑地広場

階段デッキと多目的室です。
高さ4mの大型木製サッシは、この開放感です。開け放つと内外を一体的に使うことができます。
天井を見上げると、格子状に積み重ねた梁が内外に連続して架かる様子がよく分かります。
これらの特徴的なデザインはお茶のみワークショップで出された「明るく開放的な施設とする」、「ここに来た人が出会う機会を増やす」、「木をたくさん使う」等の意見から導かれています。開放的で来館者同士が出会えるようにするため、壁を極力減らす必要がありました。(完全な木造では地震力に対抗して壁が増えてしまうので、)柱を鉄骨造、屋根を木造とすることで、壁を極力減らした開放的な架構と、木をたくさん感じられる空間を両立させています。また大型木製サッシは内外の視認性を高めるとともに、建物周囲との一体的な利用を意図しています。

パーゴラと西側広場

パーゴラと西側広場

西側より南西コーナーを見ています。
コーナーのサッシも開け放つことが可能です。そうすると和室の小上がりがダイレクトに軒下に開かれ、西側広場とつながります。右手奥に見えているのは緑地広場に設置されたキャンバスです。キャンバスは誰でも絵を描くことができるコンクリートの壁で、緑地広場に彩りを加えています。

パーゴラと西側広場

西側、駐車場よりパーゴラを見ています。
駐車場からのアプローチ動線をなぞるように、また西側広場を囲むように掛けられた屋根がパーゴラです。屋根はガラス製の太陽光発電パネルでできています。駐車場には電気自動車の充電スタンドも設置されています。

パーゴラと西側広場

ならはCANvas北側出入口へと伸びるパーゴラです。
こちらのカーブには、移動販売車が寄り付けるようになっています。

パーゴラと西側広場

西側広場を囲むパーゴラです。
移動販売車のカフェスペースになったり、フリーマーケットや朝市にも使われます。水平力を負担するコンクリート壁はビシャン仕上げで、開口部をベンチとして設えてあります。視認性を確保しながら、西側広場をやわらかく囲んでいます。

みんなのリビング

みんなのリビング

みんなのリビングです。
たまたま同じ時間に来館した人同士が出会えるよう、内部は見通しの聞く大きなワンルームのようになっています。
その大きなワンルームを2階の床がなんとなく区切ることで、色々な場所が作られています。2階の床は建物から飛び出るように伸びて、展望テラスになります。

みんなのリビング

家具は色々な場所にあわせてデザインされています。
みんなのリビングのソファは3つのサイズがあり、組み合わせることで様々な使われ方に対応します。大人数で輪になっておしゃべりしたり、知らない人同士がそれぞれ適度に距離をとって座ったりできます。
左手に見えているのは、町内の方がつくった作品やお知らせ、雑誌などが収納された、組み換えできる棚です。
右手にはシンプルな机と椅子があります。打合せやイートインコーナーとして、また木製サッシを開放して西側広場と一体的な利用が可能です。

みんなのリビング

みんなのリビングから北側を見ています。
ガラスの向こうに見えるのは商店街のスーパーです。お弁当を買って立ち寄ってもらったりといった、商店街との連携を考えた位置に風除室を設けています。建物出入り口はこの他、東西南の各面にもあり、西と南には風除室があります。これは「どこからでも立ち寄れる施設」というワークショップでのアイデアを反映したものです。人に立ち寄ってもらい、その人たちが出会うことが出来る、という交流館が持つべき根本的な機能を具現化しています。

多目的室

みんなのリビング

多目的室からみんなのリビングを見ています。
多目的室は可動間仕切りで閉めることも可能です。しかし、2階と吹き抜けになっているため、完全に閉じられることはなく、イベントや講演会の音はまわりにも聞こえます。多目的室を閉じた部屋とする必要が本当にあるのか、ということをみんなで議論し、漏れてくる音があってもよい、人の気配や賑わいが感じられることを優先するという決断がなされました。なかなか公共施設では実現できないことだと思いますが、人口が減少する時代における、ひとつのあり方かもしれません。

みんなのリビング

多目的室から南側緑地広場を見ています。
ランダムに横桟のはいった木製サッシは、ガラス1枚あたりの面積を小さくすることによるコスト削減と、サッシ強度を上げることを意図し、デザインしています。

みんなのリビング

多目的室から東側を見ています。
可動間仕切りによって2つの部屋としても使えます。
2階の床や鉄骨梁は、あえて柱の側面に接するようにして柱のラインを通し、柱がすっきりと見えるようにしています。こうすることによって、寺社建築にみられる「斗きょう」のようなイメージの柱頭部分、さらには柱頭と接合された木製の格子梁もきれいに見えてきます。

キッズスペース

キッズスペース

和室の小上がりとキッズスペースです。
子供が遊んでいるのを大人が見守れるよう隣り合って設けました。キッズスペースにはボールプールもあります。
上部に2階の床がかかっているので、天井高さを抑えた親密な空間になっています。
天井は片側のみ製材し、木の曲がりを残した片耳材をルーバー状に貼って仕上げとしました。
窓際には、津波で被災した家屋の古材を利用した柱がたっています。この古材は事務室のカウンターや2階の和室でも再利用されています。

キッズスペース

廊下より西側を見ています。
右手奥には西側の風除室と、その隣に調理室が見えます。
調理室は西側広場に突き出るように配置されています。イベント時の料理の提供や、期間限定のチャレンジショップとして活躍しています。

2階

2階

2階より吹き抜けのみんなのリビングを見ています。
大きなワンルームを2階床が区切っています。左側の吹き抜けは多目的室です。左奥には2階和室の障子が見えています。

2階

見返しです。
2階の左側一番奥に見えているのは、防音仕様のサウンドルームです。その下、1階は事務室になっています。みんなのリビングとは古材を利用したカウンターで仕切られています。

2階

長い机のあるワークスペースです。
勉強をしたり、仕事帰りにパソコンをひらいたりと、多くの人に利用されています。コンセントやフリーWi-Fiが使えます。格子梁の中央部分は、軒先と同じように段々と数を減らしていくデザインになっています。格子梁の上部には排煙窓があり、そこから、ぼんやりと光が入ってきます。

2階

2階の和室です。
古材をふんだんに使った敷台、その先の和室は吹き抜けに跳ね出すように作ってあります。
障子はコーナーをくるっと回して、閉めることもできます。

和室

2階和室、はね出した先にはホトトギス山が見えます。
「和室からホトトギス山を見たい」という意見もワークショップで語られたものでした。

サウンドルーム

2階サウンドルームです。
防音間仕切りを閉めれば、音楽を聴いたり、映画を観たり、ちょっとしたホールのように使えます。
左の壁の中にはバンドルームがあります。こちらはさらに大きい音を出すバンド活動などにも使える部屋です。ボックスインボックスの入れ子構造とすることで、防音性能を確保しています。

夜景

外観 夜景
外観 夜景
外観 夜景

オープン1周年を迎える2019年7月24現在、町民の帰還が進むとともに、新しく加わった住民もいて、人口は約90%ほどまで回復している。


みんなの交流館 ならはCANvas

みんなの交流館 ならはCANvas

  • 所在地/福島県双葉郡楢葉町北田字中満260番地
  • 主要用途/集会場
  • 建て主/楢葉町

設計協力

  • 構造/中田捷夫研究室、皆本建築工房
  • 機械設備/内外設備設計
  • 電気設備/アイワ企画事務所
  • 照明/Love the Light
  • 家具/富永明日香建築設計事務所、いろどり製作所
  • ワークショップ監修/立命館大学 乾亨

構造・構法

  • 主体構造 鉄骨造 一部木造
  • 基礎 直接基礎(独立フーチング基礎)

規模

  • 敷地面積 3,124.45㎡
  • 建築面積 1,083.45㎡
  • 延床面積 1,007.40㎡

工程

  • 設計期間 2016年11月~2017年3月
  • 工事期間 2017年8月~2018年6月 

敷地条件

  • 非線引区域 
  • 道路幅員 東6.0m

利用案内

撮影/高橋 菜生