全体の構成についての検討
設計を始める前
敷地条件:仙台市通勤圏内の新興住宅地であり、近年では最も人気のある住宅地のひとつである。何と言っても、この敷地の最大の魅力は、敷地南側に接する遊歩道である。遊歩道は10m以上の幅があり、小川が整備され四季を彩るさまざまな木々が植えられている。四季を通じて豊かな景観を与えてくれ、また、楽しいコミュニティの場になるに違いない。敷地は北側に接道し、西と東は隣地に接している。
クライアントの要望:現在の家族構成はご夫婦二人。お二人共にお仕事をされており、これからもずっとそうされるつもりである。クライアントの要望は最初の時点からはっきりと固まっており、具体的な要点をはっきりと示された。
「中庭は必ず欲しい」
「お客さんを招いてお酒を楽しんだりできる土間が欲しい。カウンターバーが欲しい」
「寝室はロフトとしてリビングにつながっている感じで構わない」
「遠い将来に親と同居するつもりがあるので、その準備が必要」
「予備スペースが一室欲しい」
全体計画の検討
先ず考えたこと。「使う庭(中庭)」と「眺める庭(遊歩道側の庭)」
この住宅を計画するに当たって先ず考えたことは、クライアントの要望する「中庭」とこの敷地の特徴である「遊歩道に面する庭」の二つの庭をどう位置づけるか、であった。
設問は複雑に考えることも単純に考えることも出来る。わたしたちは出来るだけ単純な方法を選ぼうと試みた。クライアントの話を伺えば、中庭のイメージはアクティブに使う中庭であった。であれば、「遊歩道に面する庭」には更に植栽を施し、遊歩道の木々に更に厚みを持たせ、雑木林のような景観をリビングに与えてくれる庭にするべきなのだろう、と考えた。その緑は遊歩道を行き来する人たちの視線からこの住宅のプライバシーを守ってもくれるだろう。「そうした豊かな木々の景観を背に中庭をアクティブに使いこなす」そうした生活を組み立ててみることにした。
先ずは両隣からの視線を遮る為に「収納」や「水まわり」「キッチン」といった閉じた空間を東側と西側の隣地にそって配置する。その間の空間が基本的にオープンに連続して使うことになる『「リビング」「中庭」「土間」「客間」』であると考えた。この空間は、空間内部の住人同士にとってはオープンな空間ではあるが、隣地や周囲からの視線からは守られている。
「回遊性が欲しい」
わたしたちの案に対してのクライアントの意見ははっきりと、こうである。
「基本的な考え方は良いと思うが、中庭をめぐる回遊性が欲しい」
クライアントの要望に従い、いざ作業に取り掛かってみると、やたらと廊下の多い住宅になってしまった。このオープンな空間の中に、土間の中の一部に設けた畳敷きの客間も含めるつもりで考えていたが、その部分の処理に困ってしまったのである。回遊性を持たせたところで、畳敷きの客間を跨いでの回遊性であれば、履き替えの問題も起こってくるし、いざお客さんが泊まったときには障子の仕切りの仕方で困ってしまうだろう。そうなれば必然的に客間に平行して廊下を設けなければならず、かなりの面積のロスになってしまう。
必要な諸室の面積を確保し、その分だけ全体の面積を広げればよいようなものだが、クライアントからお聞きしている予算からはかなりはみ出してしまう。
この問題ではかなりクライアントを悩ませてしまい、迷惑を掛けてしまったように思う。
そしてもうひとつ、クライアントからの注文をいただいた、土間に設けるカウンターバーはわたしたちが想定していたものよりも結構大掛かりなものだったのだ。簡単なシンクも必要になりそうであり、そうなれば、むしろキッチンと土間を隣接させた方が使い勝手は良くなるだろうと考えた。そうなると、回遊性はむしろ望ましくなってくる。わたしたちは何を選択するべきかすっかり分からなくなってしまったのである。
下階をオープンに。上階に(そこそこの)プライバシーを。
回遊性にまつわる問題をクリアする為に、クライアントには大きな決断を下していただいた。選択した解決策はこうである。
『回遊性は、やはり確保する。1階には土間と中庭、LDK、そして風呂などの水まわりだけを設け、客間は設けない。その代わり、2階に予備室を2室と寝室を確保する。客間は将来の親の同居を考えて1階が望ましかったが、それは将来の改装によって土間の一部をそうしても構わない』
そうなると、下階は「風呂、脱衣、収納、トイレ」などの殻の固い諸室以外はすべてコモンスペース(共用スペース)となり、すっきりする。逆に2階に配置されたのは「寝室と予備室2室」であり、プライバシーの度合いがより高い室たちである。構成としてはきわめて明快である。
今になって振り返ると、わたしたちが提案した「初期提案」には、そうした『ゾーニング計画(大まかなゾーン分けが合理的かどうか計画すること)』に不備があったのだと思う。客間という空間の性格付けが曖昧だった為にそうした矛盾が起こってしまっていたのだ。客間は普段はオープンな空間で構わないが、いざとなると、(家族でない者が寝起きするので)寝室などよりも遥かにプライバシーの必要な空間に変貌してしまう。抽象的で、一見無駄にも思える『ゾーニング計画』の重要性を痛感した出来事であった。
この近辺で考えた物事は基本的に断面計画にかかわる思考である。簡単にまとめると以下の模式図のようになる。このように簡単にまとめられるということは、基本的にシンプルで無理の無い計画だと言うことだと思っている。
結論。「機能を割り振ったドミノ」を井桁に組む。
結局、クライアントとわたしたちが選択した基本構成は以下の図ようなものである。一言で言えば『「機能を割り振ったドミノ」を井桁に組んだ』ということになるだろうか。
細部をめぐる検討
中庭をめぐるはなし。
どう使われる空間か。サッシュを開け放した際の想定。
前の項で触れたとおり、この中庭は「アクティブに使う庭」として想定されている。主には春から秋にかけての寒くない時期に、サッシュを開け放ち外も中も関係なく、人の視線も気にせずに自由に過ごしたい、とのクライアントのイメージから組み立てられた空間である。
「土間 ~ 中庭 ~ リビング」は基本的に無目的な(使用目的を限定していない)空間であり、使い方は自由である。この連なりの西隣りに「ダイニング ~ キッチン ~ カウンターバー」という機能性、目的性の強い空間が配置されており、そこを基点としてどう使うかによって、これらの空間は様々な使われ方をするはずである。
例えば、友人数家族を招いてホームパーティを行えば、おとこ連中はカウンターバーのまわりに陣取って乾杯を繰り返し、ご婦人方はキッチンとダイニングを中心に、食事の用意とおしゃべりを繰り広げるだろう。また、こどもが友達をお誕生日会に連れてくれば、ダイニングテーブルを中心に家中を駆け回ることになるだろう。また、普段の休日は、こどもにはダイニングテーブルで宿題をさせながら、旦那さんは中庭で日光浴をしながらビールを飲んでいたりするのである。そうしたことは、広い空間の中に室内と室外が程よく入り混じっているから可能になっているのだと思う。
どんなサッシュを選ぶか。
そのようなオープンな使われ方をする中庭を実現するに当たって一番頭を悩ませたのが中庭に面する部分の『サッシュの選択』である。
クライアントと一緒になって考えた第一条件は「中庭に対して大きく開け放てること」である。最初期の提案時には『ヘーベシーベ』というドイツ製の大型サッシュの三連のものを戸袋に引き込むことを考えていた。初期コストは少々割高だが、夏には開け放つことが出来るし、サッシュを閉めたときにも見えてくるサッシュの枠が少なく、見栄えがいい。しかし、1階に回遊性を持たせたことでサッシュを引き込む為の戸袋を設置するスペースがなくなってしまった。そうなると、扉を全開にしたところで、引き残しが1/3ほども残ってしまう。
次に候補に挙がったのが、『アルミ製の折れ戸』である。少し前まではこうした折れ戸には店舗用しかなく、気密性が落ちることを了承してもらった上で使用したものだが、現在は住宅用の製品も各サッシュメーカーが売り出している。開け放しているときには開放感は良好なのだが、欠点は閉じている時の見栄えである。約90cmおきに縦にサッシュの枠が見えてしまうのだ。クライアントと相談した結果、今回のケースではこの選択が良いだろうということに落ち着いた。
これとは逆に、リビングの遊歩道に面する方のサッシュは眺め(借景)を重視する為にサッシュの枠がより少なくて済む「嵌め殺しサッシュ」を多く使っている。
網戸をめぐってのはなし。
中庭を開け放ってオープンに使う為の大切な秘密が、もうひとつある。
網戸をめぐるはなしだ。
人口のもの、とは言え小川がすぐ隣りに流れているのだから、夏場の虫には苦労する筈だ、というのがクライアントの最初からの心配であった。そうとは知りながら、何が何でも中庭をオープンに使いたいのである。そうして、中庭の屋根の部分に防虫ネットを掛け、中庭毎すっぽりと覆ってしまおう、ということになった。中々のアイデアであるが、念のために言っておくと、これはクライアントのアイデアである。(クライアントもアイデアの権利を主張したりなどしないであろうが、一応、手柄を横取りした格好にならないよう、言い添えておきます【笑】)
この中庭に掛けるクライアントの情熱は並々ならぬものがあった。一口に防虫ネットとは言え、具体的にどんなものを使用するのか、わたしたちが具体的に作業に移る前に、あれこれと材料を物色しコストや耐久性を調べ上げ、獲物を狙うジャッカルのように慎重に核心に迫ったのはすべてクライアントである。わたしたちはなにひとつ、汗をかいた記憶がない。隠し立てをするつもりはないが、ついに探し当てた結果を公表するのは、クライアントの了承を得てからにしたい。
取り付け方法に関しては、あれこれとクライアントと共に試行錯誤を繰り返している。最初のアイデアでは、出来るだけ高い位置に取り付けたほうが見栄えが良いと考え、2階部分(2階部分は木造である)の屋根近辺に金物を取り付けようと考えたが、ネットが風にあおられると取り付け金物にどの程度の張力が掛かるのかが心配であった。どうしてもその部分が弱くなってしまうのではないか。また、クライアントは、取り付ける労力を心配されてもいた。年に一二度のこととは言え、面倒臭すぎるとそのうちに必ず使わなくなる。
現在の案では、1階の庇の部分上部(コンクリート造の部分)に金物を取り付け、その間にワイヤーを渡し、その間に防虫ネットを渡して開け閉めが容易に出来るようにしようということになっている。こうすれば開閉が容易な分だけ使いたいときに開閉でき、見栄えも使い勝手も良かろうと考えている。
床の仕上は、どうするか。
中庭の素材をどう選択するかについては、デザインから考えると大理石などの光沢のある素材がいいのではないかと考えていた。ここに光が反射すれば更に「土間」の奥まで光が拡散し、より豊かな内部空間が得られるのではないか、あるいはこの床面に青空が映り込んでいる時の光景といったら、さぞ素晴らしいだろう、と考えたのである。(コスト上の問題はさておきではあるが、)
ただ、ふと気になったのが、クライアントがイメージしている「中庭」はもっと「アクティブに使う庭」であるということだった。反射するほどに磨いた石は滑りやすく、こどもが駆け回るには適していない。また、雨が降れば大人でさえ転んでしまうかもしれない。あれこれと考えて結局はデッキ材を採用することになった。ただ、その張り方にしても全面に張るべきか、それとも一部に他の素材を採用し、もう少しデザインするべきかかなり悩んだ。
BIRTH OF POOL プールの誕生
実施設計も終わり、工務店数社に依頼した見積も出来上がって来、今後の見通しも立ち始めた頃、「中庭にプールが欲しい」との話が急に湧いてきた。
いただいたアイデアとしては、こうだ。デッキの一部を取り外せるように加工し、その下に4m×m程度の鉄筋コンクリート製の掘り込みをつくる。深さは60cmくらいか。そこに既製品の大型プールを置くようにすれば比較的安価にプールが作れるのではないか。
検討に取り掛かってみたが、問題は幾つか浮上した。先ずは、取り外し式のデッキをどう作るかである。今回使用予定のデッキ材のパネル割をして重量を算出すると、とんでもない重量になってしまう。かといって細かく割りすぎるとデッキを装着したときのガタツキがかなり気になる筈である。鉄骨製の梁(これも取り外し式)の上に、良い塩梅に割り付けたデッキを配置するとか、様々なアイデアを出したが、どうも使用に耐えうる感じがしない。すぐに歪みが生じ、使えなくなってしまうのではないか。
わたしたちはクライアントに取り外し式のデッキを諦めて、その代わりプールを使わないときにも水盤として使えるような綺麗なプールを提案してみた。話をすすめると、クライアントが求めているのは、子供たちがこの中庭で遊びまわったときの安全性だと分かった。水を張ったまま放置しておいても危険であるし、水を抜いたままおいておくと見栄えも使い勝手も悪い。ただ、検討を進めてゆくうちに、掘り込みの中に既製品のプールを置く方式では、プールとデッキの際(きわ)に不具合が生じてしまうことがはっきりした。結局、コンクリート製の掘り込み自体に防水性を持たせプールとすることにしていただいた。
結局、取り外し式のデッキに関しては、デメリットの可能性を説明した後に了承していただいた。
もうひとつ、わたしたちがこだわった箇所がある。プールを使用する際に、「水をどのように見せるか」である。当然のことながら、ここに掛けられる予算は少ない。その制約の中でデザインするとなれば、どれだけシンプルに構成できるかが勝負となり、水のエッジとデッキのエッジを際立たせて並べようと考えたのである。この部分についてはいまだ検討中であるが、中庭を彩る重要なエレメントになる筈なので、もう少し時間を割いていい物をつくりたいと思っているし、もう少しエレガントな感じでデザインしても良いような気がしている。
「土間」、カウンターバー、土間上部
土間とは、どんな使われ方をするのか。
「土間」は、最初からクライアントの要望の中でも大きなウエイトを占めている。「土間」と簡単に言ってしまうと、少し実際のイメージから離れてしまうかもしれない。要は、旦那さんの趣味を中心として展開するフリースペースであり、多分車やバイク好きの旦那さんであれば「ガレージ」と名前を付けたであろう空間である。打合せを重ねるごとにうっすらとイメージが理解できたのであるが、その反対に、今回の場合、「リビング」とは、奥さんを中心とした家族の為のフリースペースである「ダイニング」に付随するスペースである。多分。その証拠に、リビングは、今回の住宅の中でもっとも話題にのぼらなかった空間である。
さて、この土間にまつわるイメージとして良くお聞きしたのが、友達を呼んでわいわいとビールを飲むイメージである。最初はそのあたりのイメージが良く飲み込めていなかったせいもあり、話がちぐはぐに噛み合っていなかった場面も多々思い当たる。
わたしたちも何度か、「土間」と名前を付けた空間をつくったことがあるが、今回のような雰囲気の土間ははじめて手掛けた気がする。
土足か、上足か。履き替えの問題。
今回の計画のやりとりの中で、私たちとクライアントの意見が噛み合わず、もっともご迷惑をお掛けしたのが、土間の空間は上足で使うべきか、土足のままで使うべきか、の問題であった。実際この問題の解決だけでも数ヶ月を要した。
『「土間」という名前のとおり、当然、土足で使うのが土間である』というのがクライアントの見解であった。それに対しわたしたちは、『せっかくいろいろな犠牲を払って「回遊性」を確保したのだから、当然靴を履き替えることなく歩き回れるべきである。土間を土足空間にすると、土間を横断するごとに履き替えが必要になるではないか』との立場をとった。
今思い出せば、わたしたちも、それくらいのことは全体にとっては大した問題ではないのだから、クライアントに簡単にメリットとデメリットを説明して、さらっと通り過ぎても良かったのではないかとも思ってしまう。
階段の付け方をめぐるはなし
階段はごく初期の頃から、土間を彩るエレメントとして重要な位置を占めるだろうと考えていた。当初は「かなりゆったりした階段を土間の端から端までゆったりと上らせよう」と考え、模型で表現してみたところ、クライアントにも大層気に入っていただいた。そのゆったりした感じはきっと、その土間の持つある種の「エレガントさ」の表現になるだろうと考えた。しかし、その階段を設置するとどうしても実際に使用できる土間の空間が狭くなってしまう。何よりも決定的だったのは、この土間を将来改装して客間とした際に邪魔になってしまうのではないか、ということだった。そうした試行錯誤を経て、この階段は現在の螺旋階段に落ち着いた。
しかし、この螺旋階段を巡っても、その細部においてはかなり苦労を重ねている。まずは、当たり前に配置すると上手くこの中に入らないのである。何故ならば、この住宅は1階部分の鉄筋コンクリート部分は様々な検討の結果、梁面から水平に50cm分のフィンを張り出さなくてはならなくなったため、これを避けて単純に螺旋階段を設置すると、螺旋階段は1階で土間の幅の真ん中に来てしまう。そうなると螺旋階段をすり抜けて土間に入るような格好になってしまい、十分な幅が確保できないのである。
上手く納まってみると、何ということもないのであるが、この階段を納めるのにもかなりの時間と量力を費やしている。その一端を少しでも汲んでいただければ有難い。
床の仕上と、壁の仕上
この「土間」空間は、クライアントのお話をお聞きするうちに「豊穣な空間にしたい」と思うようになっていった。しかし様々な制約もあって空間の細部を凝って創り込んでゆくことは難しかった。そこでわたしたちが考えたのは、艶のある素材を使って、豊かな感じを醸し出そう、ということだった。床はコンクリート金ゴテの上に塗装を施し、壁はラワンベニアの上に木目を浮き立たせる塗装をしその上に艶を出す塗装を施すつもりである。両方共に、質実剛健過ぎるほどの素材ではあるが、その中にも豊かさを感じとってもらえればよいと考えている。
カウンターバーを巡るはなし
バーカウンターをどう作るかについても、あれこれと紆余曲折がある。
最初、クライアントの中ではアイリッシュパブにあるようなカウンターのイメージがあったのではないかと思う。はっきりと仰らなかったが、カウンターの前の部分を一段高くしてビアサーバーを取り付けたり、といったイメージをお聞きすると、どうやらそうではなかったのかと思ってしまう。
今回のこの「バーカウンター」がそういった方向には進まなかった理由ははっきりとは思い出せないが、打合せを重ねるうちに、クライアントの中のイメージが次第に変わってきたように記憶している。バーカウンターのようでなくとも、キッチンの作業台のような形で作るのだろうと、わたしたちは考えていたが、やがて、ここで食事も出来るような「テーブル的な要素の強いもの」に姿を変えていった。その変化は素晴らしく自然な形で起きた。(このあとの部分で詳しく述べることになるが)この「ダイニング~キッチン~バーカウンター」は、次第に「みんなで使う大きな作業台」であるというイメージが自然な形で醸し出されていったことの証ではないかと思っている。
土間上部
土間空間の上部には、設計当初から吹き抜けを想定し、その一部に予備室を準備する予定であった。予備室は一室とし、ちいさな収納をつけて独立した個室を作る予定であったが、「客間」を将来の改築後に後回しにしたことによって、上部も含めて土間全体のイメージや性格付けがガラリと変わってしまった。要するにこれらの空間は未完成なままの空間に留めておこうということになったのである。
土間の上部には二室分の予備スペースをつくり、それぞれが独立した個室として使用できる配置としたが(2室の間に吹き抜けを挟んでいる)、現在の段階では間仕切りの壁は設けず、カーテンで仕切ることを想定している。つまりは何も用意されていない空間なのである。二室の間の吹き抜けには、その床高さに等間隔に梁を並べているが、空間としてのデザインを考慮した結果でもあり、また、その梁の上にベニアを並べれば簡単な荷物置場くらいにはなるだろうと考えたからである。つまり、この梁たちは、土間の未完成さ(逆に言えば将来の拡張性)の象徴である。
ダイニングキッチン
ダイニングの位置づけ。みんなで使う「大きな作業台」とそれを支える背中の収納
前にも述べたとおり、ダイニングからキッチン、バーカウンターに連なる空間は、「リビングから中庭、土間」にかけての空間をバックアップする為の空間として捉えている。この空間は、主に二つの大きな構成によって成立している。ひとつは、家族みんなが(別々のことをしながらも)囲んでしまうことになる「大きな作業台」と、その作業台を支えるためにその背中に配置された「収納部分」である。
造り付けのダイニングテーブルの背中に配置された収納には、PCやプリンターを収納したりできるようにし、子供の勉強道具などの収納、奥さんの化粧スペースも兼用している。その横のキッチンの作業台周囲には食品収納スペース、炊飯器や電子レンジ等の設置スペースがあり、バーカウンター近辺には旦那さんの趣味であるお酒を飾っておくスペースやビールサーバーを設置するスペースが用意されている。ある意味でこの空間はすごく機能の詰まった空間に仕上られている。
「ダイニングテーブル~流し台~バーカウンター」までつながるデザイン
何と言っても、この空間の見所は、一体的に仕上げられる予定の「大きな作業台」である。家族がそれぞれ勝手なことをしながらも、この作業台に寄り付いて離れず、この作業台を中心に生活を繰り広げる姿を、わたしたちは楽しみにしている。
これらの空間の天井にまつわる考え方。
これらの一連の空間は、その対となる「リビングから中庭、土間」とは対照を成すように作られているが、天井の高さに関しても、その考えを踏襲し、低く抑えられている。これらは空間にメリハリをつけ、日常生活の中にうっすらと新鮮さをもたらす筈である。ただ、ダイニングに関しては家族が一番集まる場所であることを踏まえ、低い天井に口が開いた状態でその向こうに高い天井がのぞめるように構成している。
また計画の途中段階で「キッチンをもっと明るくしたい」という要望をいただいたが、その際にはテーブルと平行に細長いスリット状のトップライトを検討したこともあった。いろいろな方式のトップライトを俎上に上げ検討を行ったが、そのうちに硝子ブロックのトップライトにたどり着いた。この方式は、コンクリートのフラットルーフの場合、何よりも防水が簡単に行え、コストも安定している。15cmのスリットを3.5mくらいの長さでつくったとしても10万円以下で納まるのではないかという試算が出た。そのスリットに蛍光灯も仕込み、昼にも夜にもそこから光が漏れてくるようにしよう。そうすれば、この空間の長さ(長い直線の綺麗さ)と相俟って素晴らしい空間要素になるに違いない。そんなアイデアを基に模型も作り、クライアントと一緒にかなり盛り上がった。
このアイデアがお蔵入りしたのはひとえに構造上の問題である。今年6月20日以降の建築基準法改正に伴う確認申請作業の煩雑さを考えると、とてもではないが難しいだろうという判断になった。
その他の空間
リビングから寝室(ロフト)へのつながり方。階段のとり方と、天井の作り方。
最初のクライアントからの要望の中に「寝室はロフト的にリビングにつながっている感じで……」という事柄があり、今回の寝室の配置はそれに従って行われている。配置計画としてはそれ以上に何の工夫も行っていないが、ひとつ気に掛けているのがリビングから寝室へ上がってゆくときの「場面の切り替え」である。
リビングから寝室へ上がってゆく階段は、確保できる寸歩の関係上、(ギリギリではないが)勾配もきつく、ゆったりとした階段だとは言えないつくりとなっている。なんとなくではあるが、「リビングから寝室の間の切替え装置」としては、この階段は役不足なのではないかと感じてならないのだ。
わたしたちは、この階段の小さな空間に、ガラリと雰囲気が入れ替わってしまうような仕掛けをしようと考えた。リビングから寝室に掛けての空間は全体的に白っぽい空間なのだが、この階段の空間にだけグッと引き締まった色と素材を配置しようと考えている。そうすれば、リビングと寝室の間の移動行為は「トンネルをくぐる」ような少し楽しい体験になりはしないか、と考えている。
どうでもいい空間、廊下。その突き当りのトイレ。
あまり生産的でもないのだが、こういう仕事をしていると、誰も見てくれないところにやたらと張り切って頑張ったりすることがある。今回の場合、担当スタッフが、この廊下に費やした労力は中々のものである。何とならば、オープンデスクの学生(山口君)にお願いしてそこだけ1/10の詳細模型を制作しているのである。彼は人生の中の貴重な二週間を割いて廊下の細部の模型に没頭くれた。
この空間を考えるにあたっての基本方針は「とにかくすっきりと見せる。しかし、単調にさせない」であった。基本的にはリビングや土間を引き立たせるための「添え物」の空間である為に、天井高さ、採光の具合も控えめに抑えてある。
この空間で気になっているのは、まず、玄関を入ってすぐ左手に見える「玄関収納」の戸(2箇所)である。使い勝手を考えてこの戸は引き戸となっており、どうしても納まりとしては甘くなりがちである。その壁に沿って廊下を奥に進むと、洗面室の入口が左手に見えるが、それは壁に割り付けたベニアと揃えてつくる予定であり、シンプルに納まっている。その反対側の壁には控えめに採光用の小窓が開いており、また、壁面に(ひと工夫した)照明が設けられている。この空間は基本的に白色を基調に仕上るつもりであるが、単調さを避けるために三種類の「白」を用意するつもりである。「艶のある白」「つや消しのマットな白」「木目の浮き出た有機的な白」である。
そとまわり
外観デザイン。コンクリートと木の組み合わせ
準備中です。
コンパネの割り付け、構造スリット。
準備中です。
道路に面した部分のデザイン、駐車場
準備中です。